今回も橋本雅子さんにお願いしています。
連続3回の2回目は、ご自身にとってのちぎり絵とはなどについて語ってくださいました。

橋本雅子(はしもとまさこ)
ちぎり絵作家、あろは〜呼吸法代表
あろは〜呼吸法ホームページ:
—— ちぎり絵を始められた最初の頃の作品は、ハワイへの恩返しを中心にとのことでしたが、今は何を中心に作品を創られていますか?
橋本:今は何をというのではなく、自分の心が動いたものを創るようにしています。毎回自分の中でテーマを決めて個展は開催していますが、その個展のテーマに合うようなものを創るという感じです。
—— まず個展のテーマが先にあって、インスピレーションを感じたものなどを創っていくのですね。
橋本:はい。2018年9月の個展のテーマは”Just Breath” という「ただ息をしているだけ」という意味なのですけど、「ただここにいる」とか。毎日を大切に過ごすという意味も含めて、朝から夜にかけての空の色のグラデーションなどを作品に表現しました。
—— 雅子さんはあろは呼吸法の指導をされていますが、まさにちぎり絵のテーマもそこと通じている感じがしますね。
橋本:はい。呼吸と通じたい、作品の前に来た方が呼吸しやすくなるような作品を作りたいという想いがありました。色のグラデーション、和紙の美しさも感じて欲しいなと、グラデーション的な作品が多かったです。いつもならお花ならお花をテーマにしていましたが、今回は感覚的なことを初めての試みでしてみました。
—— 見る側も感覚を研ぎ澄まし自分の内に深く入ってくるようなテーマですね。
橋本:はい。きちんとしたモチーフでない作品は初めての試みで、本当に自分の内側を見られるような作品でしたから、恐れもありましたが、結構今までよりも色々なことを感じたとおっしゃってくださる方が多くて、やっぱり作品から自分の想いとかそういうものがすごく伝わるのだなというのを今回感じました。
—— ちょうどこの時代に自分の中に深く入ろうとするようなものを選ばれた理由は何かあったのですか?
橋本:時代とか考えなくて、たまたま自分がそうしたいと思いました。
—— 雅子さんの中でも同時に進行していることがあったのかもしれないですね。
橋本:はい。自分の中ですごい切り替わりのような出来事がありました。良い意味で自分自身が生まれ変わりたいという心境の時にちょうど目の前に目的の個展があったので、作品を創る前に自分の気持ちを整えるにはどうすれば良いかと思って、作品を創る時って無心なんですけど、とにかくより無心になれる風に持っていったのです。
—— 無心がキーワードでしょうか。
橋本:私の場合ざわついた心では作品が創れないのです。他の方もそうかもしれないけど、どんなに技術があっても、ざわざわしたままの気持ちで創るとそれは絶対に波長として人に伝わってしまうのではないかと思います。子どもの作品って何で感動するのだろう、子どもの創るものにはかなわないといつも思いますが、子どもって無邪気に楽しくて無心なんですね。それがエネルギーとしてパーンと出ているからもうかなわない。だから私の中で「子どもの作品は先生」と思っています。
—— 子どもは簡単に無心になれる、けれど大人の場合はどうなのでしょう?
大人って色々な思考があるからそういう状態になかなか今はなれなくて、どうやって上手に見せようとかこう見られたいとか欲が出てくるのですけど、ちぎり絵を創り始めた最初の頃からずっと通して私の中で消したくないのが「無心」です。最初多分子どもの心で創ったと思うのですね。「わっ、ハワイの景色創りたい!」と。その想いは最初の作品を見ると出ているのです。ずっと根底にあるそれが流れなくなったらやめる時と思っています。
—— ということは、雅子さんが最初にちぎり絵に出会って、ピコンと灯りが点いた、そしてハワイの作品創りに入っていかれたその想いはプロになっても変わっていないということですか。
橋本:変わっていないですね。創り始めたら初心の気持ちだし、毎回手を合わせてから始めます。
—— 作品創りの最初に手を合わせることの意味はどのようなものなのでしょうか?
橋本:宇宙の元の、命の大元から繋がってご先祖様がいて今ここにいるのですけど、物もそうだし、地球も惑星もそうだし、すべて大元があって出来上がっているということを思うことがあって、呼吸をしているから余計そう感じるんですけど、その大元に手を合わせて感謝してから創るとなんか心地良いのです。和紙にも感謝が伝わるし、出来上がった作品も手を合わせて創っているものと、ただ表現しようと創っているものでは違うのです。祈りに近い気持ちを最初に持ってから創った作品の方が発しているものが心地良いのです。だからそうしています。
—— 全てを創っている命の大元に感謝の気持ちを込めて手を合わせることが大切と。雅子さんはその違いを感じてらっしゃるのですね。他の方たちはどうでしょうか?
橋本:ワークショップで、「これから手を合わせてちぎり絵を創りましょう」と、手を合わせてから制作しますと、上手く見せようとか欲とかが消えている作品になるので、手を合わせてものを創るというのは、ちぎり絵に限らず大事なのではないかと思います。

—— それは祈りみたいなものなのでしょうか。
橋本:そうですね。上手な技術を教えてくださる先生はたくさんいると思うのです。私は技術的なことはワークショップでは少ししかお伝えしないのですが、心地よい波長の作品が生まれるにはどうすれば良いかということを大切に伝えていきたいです。
—— なるほど、テクニックではなく心の面、ちぎり絵に向かう心のありようを雅子さんは伝えていきたいと考えてらっしゃるのですね。
橋本:そこを大切に伝えていきたいと思っています。
—— 雅子さんが作品に魂が宿ったと感じるのはどんな瞬間ですか?
橋本:ある時に急に「今、命が宿った」っていうのがわかるんです。顔のある作品の際には目を入れた時によく感じます。桜だったら1本枝を継ぎ足した時に「あー、今桜に命が宿った」っていうような感覚です。
—— 今宿ったって思う感覚があるとおっしゃいましたけど、何か誰が見てもわかるような変化が起きるとかじゃなくて、雅子さんの中で「あ、今入った」みたいな感覚があるのでしょうか?
橋本:私の中というか、作品がいきなり生き始めるわけです。
—— 作品が生き始める時、ですか?
橋本:作品が動き出しそうな感じに見えるんです。人で言うと、心臓がドクドクドクと脈動し始めたような感覚を作品に感じるんです。やっとこの作品に魂が宿ったって、その時に思うんです。やっと心臓が動き始めたみたいな、それは感覚でしかないのですけど。
—— そこを通り過ぎるとどうなるのですか? 橋本:どこが終わりなんだろうと思って創り続けて、終わりのタイミングというものが来るんです。 —— 終わりの感覚がやって来る時、それはどんな感じですか? 橋本:それも作品が「これで、完成!」って教えてくれます。でも、そこからさらに創り続けたり、もっとやらなくちゃとか思って自我を出してやったとするでしょ。それを数日後に見るとあまりいい出来ではないから、やはり完成のサインをキャッチしたタイミングで終えた方がいいですね。 —— なるほどキャッチした時終わると、一番いい所で終われるのですね。
雅子さんにとってのちぎり絵とは、もし一言で言うとしたらどんなものでしょうか?
橋本:ちぎり絵は私の人生ですね。今世出会わせてもらった大きなものの核となるひとつのものなのかなと思っています。多分、自分のありようが何か間違ったらできなくなると思っていますけど、一生創っていきたいと思っているものです。
—— 確かもう間もなく次の個展が予定されていたと思うのですが、これからのご予定は?
橋本:はい!2019年2月15日から17日まで3日間、初めて大阪で個展を開催します。
—— 個展と並んでちぎり絵ワークショップもそこでされるのですか?
橋本:ワークショップはしないのですが、INORI桜(いのりさくら)プロジェクトチームの皆さんで創った作品も個展会場でお披露目をしようと思っています。
—— それではそのINORI桜プロジェクトについて次回は伺っていきたいと思います。
(インタビュアー・長岡 純)
大和魂 2016年 第29回全国和紙画展に入選作品(2枚目)

【イベント情報】
橋本雅子 ちぎり絵個展 「Just Breathe」 ●会期2019年2月15日〜17日
11:00~18:00 (最終日のみ16:00まで) ※会場は18時に閉館します
●会場:長居パークサイドギャラリー 大阪府大阪市住吉区長居東4丁目2−7 長居中央ビル 402号室 http://www.nagai-parkside-gallery.site/access/
●個展タイトルの「Just Breathe」は、呼吸をしていること、今ここを生きていること。時の移行をイメージした作品や、植物などの作品を展示予定。すべて和紙で表現している。
●同時開催:「Lanakoi Popup shop」 Hula dancer SakiとMiyuuがハワイでしか採取できないSunrise shellを使ったアクセサリーや、ハワイ語をモチーフにしたTシャツなどを販売。 Mahalo https://lanakoi.thebase.in